今年の夏も暑かった。雨もたくさん降った。過去には予想しえなかった自然災害が起きたのも事実だ。年々、気候変動がより加速している気がする。
9月中旬にかけて、東京では特に雨の日が多かった。毎日、空はどんよりしていた印象がある。
台風が関東から遠ざかった日の翌朝、久しぶりにカメラを持って外に出てみた。昨日は部屋のなかで台風の行方を知らせる天気予報を見てばかりいた。昔、『台風クラブ』なんて映画があったなあと思い出したりした。
昨日は善福寺川が氾濫寸前だとニュースが伝えていた。かつて、何度も氾濫したことがある川。善福寺川は下流の中野区弥生町付近で神田川と合流する。善福寺川が氾濫しそうだということは、その下流はもっと水量が増えているのではないか。果たして、神田川は大丈夫だろうか?そんな不安がよぎったが、ニュースではいっこうに神田川の危機については伝えていなかった。
その下流の神田川付近には私がかつて通っていた写真学校がある。あの頃は本当によく神田川が氾濫した。台風ではなくとも、大雨程度であっという間に学校の前が水浸しになって、巨大な池みたいなものが突然出現した。
「東京ってすごいな」
そんな感想を抱いた。生まれ育った長野県の地元ではほとんど平らな場所がなく(実際に平らな場所は学校の校庭くらい)坂ばかりなので、水が溜まることがないし、川はどこも渓流ばかりで、山や崖などが崩れることがあってもあふれる水というものを見たことがなかった。
思い出すのは、学校に行くと数人の同級生が欠席していたこと。台風が東京を襲った翌日のことだった。先生は「神田川が氾濫して、あいつら学校に来られないんだよ」と数人の同級生について言った。冗談だと思った。でも本当で、川の対岸に下宿している彼らは欠席した。携帯電話などない時代だ。私は川の近くまで行ってみた。水は濁り、向こう岸は遠く、川は荒々しかった。
あれから40年がたった。同じ橋のたもとに立ってみた。どれほど増水しているのだろうか。おそるおそる川底を覗いてみた。いつもより確かに水量は多いが、それほどでもなく意外だった(調節池などの治水工事の成果だろう)。まったく濁っていないことにも驚いた。青空を反射して青みがかってさえいた。空はすでに夏のそれではなく、秋の訪れを十分に感じさせた。羽田から飛び立った飛行機が西の方向へ横切っていくのが見えた。どこまで飛んで行くのだろうか。
小林紀晴
1968年長野県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。新聞社カメラマンを経てフリーランス。アジアを多く旅して作品を制作する。近年は日本国内の祭祀、自らの故郷である諏訪地域などを撮影している。『孵化する夜の啼き声』『深い沈黙』『写真はわからない』など著書多数。最新刊は『写真のこたえ』(2025.12)。写真集『DAYS ASIA』で日本写真協会新人賞、写真展『遠くから来た舟』で林忠彦賞、写真展『Cyber Modernity』で伊奈信男賞を受賞。初監督映画作品に『トオイと正人』がある。
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