5月は大型連休がある。寒くなく暑くもなく、花粉もおさまるので一年中この感じでやってほしい。ところがたのしい時間はあっという間に過ぎて6月になる。
雨が降る日はジメジメと蒸し暑く、たまに晴れた日は真夏を先取りした暑さになっているだろう。ギュウギュウの満員電車で通勤して、自分の無力さを痛感しはじめた新入社員は会社を辞めたくなる時期でもある。
新人が辞めないようロスジェネ世代のベテランは自分がうけた新人教育とはまったく違う教育が求められる6月は祝日もない。
そんな6月に鮎釣りが解禁されるので、ぼくは清流で釣りをしている。川の流れる音と鳥の鳴き声、水温は20度ほど。最高だ。
鮎釣りはエサを使わず生きた鮎を囮にする。鮎は虫を食べず岩についた苔を食べている。自分の縄張りの苔を荒らされないよう、囮を攻撃してきたところを狙って釣り上げる。苔を食べる食性だからか鮎は一線を画す美味しさだ。
釣った鮎をまた囮にして次の鮎を狙う。最初の鮎は川沿いの店で一匹500円で買う。
竿は9mと長い。うっかり電線に触れればあたり一帯を停電させて多大なご迷惑をかけて死ぬことになる。それよりも怖いのは落雷だ。カーボン製の竿は電気を通しやすく開けた川では避雷針のようなものだ。落雷が来る前に竿に微弱な電気が流れるらしく、少しでもピリピリしてきたら逃げなければならない。
この鮎竿の値段がべらぼうに高い。釣具店で4万円の鮎竿を手にして「4万高いな……でもカメラと比べれば安いか」とレジに持っていくと40万円だったことがある。まさか釣竿が40万円もするとは思わず、桁をひとつ間違えていた。
結局中古で5万円程度の鮎竿を買った。新品価格は数十万円するものだけど、はじめての鮎竿なので良い物なのかどうなのかもわからない。
渓流釣りは10年以上やっているものの、鮎釣りはまだ初心者だ。エサで釣るのと囮で釣るのではまったく感覚が違う。というかめちゃくちゃ難しい。500円で買った鮎もぐったりしていく。まったく釣れず囮の鮎を塩焼きにする結果になる。
たまーーーーに釣れるけど狙ったわけでなく、まぐれ当たりなのでどうして釣れたかわからないため再現性もない。釣れなくても自然の中にいるだけでたのしい。だけど釣れたらもっとたのしい。
鮎が釣れなければ撮影に切り替えることができる。写真をやっているメリットでもある。鮎釣りのために水中カメラを買ったほどだ。こうやって人生にプランBを用意しておくとたのしさが確保できる。
写真を趣味にするのではなく、趣味に写真を掛け合わせた時に写真がよりたのしくなる。趣味もたのしくなる。6月の釣れない鮎釣りをたのしみにできるのは写真のおかげだ。
新入社員もベテランもみんな写真やろうぜ。写真以外の趣味を持って趣味を撮ろう。なんせ被写体を探さなくていいからかんたんだ。カメラを持つだけで人生のプランBができて、たのしさを確保できます。
幡野広志(はたの・ひろし)
1983年、東京生まれ。 2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。
2010年から広告写真家に師事。 2011年、独立し結婚する。
2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。
近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと」など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。
最新著書「ポケットにカメラをいれて」(ポプラ社)。
https://note.com/hatanohiroshi/
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