【コラム】アンダーライン/内田ユキオ

2022.08.26 BLOG

 
写真を撮るのは、人生の物語にアンダーラインを引いていくようなものだと、エッセイに書いたことがある。付箋だと言う人もいる。
とくに日常に寄り添うスナップはそうだ。ここがハイライトで、ここで心が動かされ、ここは忘れないようにしたいと、しるしを残しておく。
いつでもそこに戻れるように。

どこかの街を気に入り、短い期間で集中的に通ったとき、なるべくその後に「我慢してそこに行かない期間」を設けるようにしている。
撮り続けることで見えてくるものもあるけれど、時間を空けて訪れたときの、懐かしいような、でも新鮮な感覚が好きだから。
錆びついた感性を揺さぶって、蘇らせてくれる。

浅草橋はそんな街のひとつだ。「SENSE」を収録した時期、休みがあれば通っていたのに、あの冬から距離をおいていた。
GR IIIとGR IIIxが入ったバッグを肩にかけ、地下改札から外に出た。考えるより先にGR IIIを握り、足が動いている。歩き慣れた街だから、光の向きや人の流れがわかる。
数歩だけでも汗が背中を伝う。激しく強い光だけれど、影に冬の鋭さはない。
川に出て、高架下を歩き、神社に寄り、ルーティーンにしていたコースを回った。

 
自分が引いたアンダーラインを、ひとつひとつ確認していく。
季節は巡り、自分にも変化があった。専門店街の夏休みは、気が抜けたサイダーのようだ。師走の賑やかさと比べて、雰囲気がまるで違う。
それでもここが、いつでも戻れる場所になったことを確信して、嬉しくなる。
イメージコントロールをカスタムしてユーザー登録してあるものを、いくつか調整する必要があるな、と思う。逃げて行く夏を追いかけるために。
ランチにうってつけの洋食店に向かいながら、前とは違う色で、アンダーラインを引いていく。
 

 
内田ユキオ(Yukio Uchida)
1966年 新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。
ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。
現在は写真教室の講師、カメラメーカーのセミナーなどでも活動中。
www.yuki187.com/gr-diary




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