特別寄稿:内田ユキオさんからの便り「写真と映画」

2020.04.28 BLOG

こんにちは、管理人のまちゅこ。です。
今回は、STAY HOME特別企画として、GRistからの特別寄稿をご紹介します。

これまでGRistとして登場いただいた方数名に、写真やカメラに関連する内容で、ひとり1テーマで紹介してもらうという企画です。
どんな方が、何をテーマに書いてくれるのか、楽しみにしていてくださいね。

トップバッターは、内田ユキオさんによる「写真と映画」について。
よろしくお願いいたします!


Q.世界でいちばん長い単語は?
A.smiles だってsとsのあいだにmileがあるから

というジョークを初めて聞いたのは中学生の頃で、マイルが長さの単位だと知っていたけれど、どれくらいの距離なのかわからなかった。だからジョークに笑えなかった。
競馬でもやっていればマイルに馴染みがあったかもしれない。マイレージという言葉は一般的だけれど、日本でマイルが用いられることはほとんどない。

でも1.6kmという長さは絶妙で、ワンマイルウェアと呼ばれる流行は、往復して一時間くらいの距離のなかで着るような普段着(力の入っていないファッション)を意味して使われた。
"GRは究極のワンマイルカメラだ"と、トークショーで話したこともある。バッグを持たず手ぶらで出かけるときにポケットに入れられて、片手でサッと取り出してそのまま撮れる。慌てて家を出たせいでメディアを入れ忘れても、300枚以上も内蔵メモリに記録できる。

マイルがファッションに用いられるもので、もう一つ好きなのは1000マイルブーツ。ブーツは長く履いていると足が痛くなるものだけれど、クロムエクセルというオイルたっぷりの軟らかい革のおかげで、スニーカーなみに軽快に長い距離を歩くことができる。
持っていることの負担を軽くするGRの完結性は、撮影者に「もっと先まで歩いてみようよ」と促してくれる。

1000マイルどころか、近所の散歩もままならない状況だけれど、一日に一度は心を動かしたいと思っている。体はダンベルでも鍛えられるけれど、心はそうもいかないので、映画をよく見る。時間があるから丁寧に、繰り返して見ることも多い。


前置きが少し長くなったけれど、今回は「写真と映画」というテーマで、いくつか紹介したい。

『欲望』というミケランジェロ・アントニオーニ監督による1966年(ぼくが生まれた年!)の映画がある。主人公がカメラマンで、とにかくかっこいいから、ポスターはインテリアに使われるほどで、これに憧れてカメラマン志望の若者が増えたらしい。
『トップ・ガン』のヒットにより海軍に志望する若者が増えたそうだけれど、あんなに単純な話ではない。

アントニオーニの映画は、ハリウッド作品のように人を元気づけたり、涙を誘ったり、愉快な気持ちにさせてくれることはない。どこかに連れて行くことを目指していないのだ。
意味ありげな光景とセリフが続き、映像は記号が織り込まれた断片であり、一切の説明も解決もない。
DVDには副音声として、アントニオーニ研究家がいちいち「いまの背景が見えただろうか? あの影は・・・」と解説してくれる特典が収録されている。ものすごく鬱陶しいし、そんなことまで考えていられないよ、と思わないでもない。1966年だからDVDどころかビデオだってないはずだ。繰り返して見られない時代に、どうやって人々はアントニオーニの映画を理解したのだろう? 「ブルース・ウィリスは死んでいたのか!」なんてオチや、みんなが大好きな伏線回収もないのに。

でも時間があるおかげで、解説のひとつひとつに耳を傾け、リモコンを手に巻き戻ししながら見ると、発見があり、驚きを感じる。
そして、これは自分が写真でやっていることじゃないかと気づく。意味はあるけれどいちいち説明はしない。受け手はそれを読み取っていく、という構造は写真展に似ている。実際に、晩年のリチャード・アヴェドンはアントニオーニに傾倒していたようだ。天性のポップシンガーも、ボブ・ディランに憧れずにいられないように。

この『欲望』のなかに残念ながらGRは出てこない。ハッセルやニコンだ。
でも「説明はしない。見る人が読み取ってくれればいい」という姿勢は、GRの設計思想に似ている。先に触れたように、現代写真の主流と言ってもいい。
ネタバレにもならないくらい有名だけれど、どれだけ拡大しても、ピクセルが見えるくらい大きくしても、そこに答えは見つからない。答えらしきものは、実は最初に感じ取っているものなのだ。

難解な映画は苦手だというなら、『ディーン、君がいた瞬間』もいい。
監督はミュージシャンを撮ったら世界一のアントン・コービンで、マグナムに所属していたデニス・ストックがモデルになっている。さすが写真家が監督しているだけあって光の扱いが美しいし、撮影シーンが陳腐でない。ファインダーを通してその瞬間=ジェームス・ディーンという短く輝いた光を捉えることに、喜びを感じている様子が伝わってくる。もしこの映画が気に入ったら、アントン・コービンの監督デビュー作である『コントロール』もぜひ。21世紀のモノクロ映画でいちばん美しいと、ぼくは思っている。GRユーザーにはモノクロに思い入れがある人は多いだろう。

邦画が好きなら「世界でいちばん長い写真」をお勧めしたい。カメラと偶然に巡り合って、それに相応しい被写体を探していくことから、人生の価値を発見していく様子を見ていると「青春してるな! いいぞ」と心躍る。次にカメラを手に街に出られたら、何を、どんなふうに撮ろうか? そうして迷えることがどれだけ幸せなことだったのか気づかせてくれる。文部科学省推薦なので、家族で見てもいい。

スタイケンは「部屋にいても世界は撮れる」という素晴らしい言葉を残した。被写体を探して旅をしなくても、身近なところに発見はある。でも刺激は必要で、こういった時期に充電のつもりで映画から滋養を吸収するのも良いと思う。知識を得るのには時間が必要で、技術を磨くには経験が必要だけれど、考え方は一瞬で変わることができると、ぼくは思っている。映画はそのきっかけになり得るはずだ。

 
映画作品リスト ※Amazonへのリンク
★『欲望』(1966年/監督:ミケランジェロ・アントニオーニ)
★『ディーン、君がいた瞬間』(2015年/監督:アントン・コービン)
★『コントロール』(2007年/監督:アントン・コービン)
★『世界でいちばん長い写真』(2018年/監督:草野翔吾)

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内田ユキオ(Yukio Uchida)
1966年 新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。
ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。
現在は写真教室の講師、カメラメーカーのセミナーなどでも活動中。
https://www.yuki187.com/gr-diary

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