【コラム】冬、台北ストーリー/小林紀晴

2026.03.27 BLOG

春節の直前、台湾の台北へ向かった。
この季節、東京より暖かいことは間違いないのだが、どの程度なのかの判断が難しい。台北に住んでいる台湾人の知人からは「とにかく寒いよ」と書かれたメールが届いた。

一年ほど前、ほぼ同じ時期に台南へ行った際は確実に服装の選択を間違えた。Tシャツで過ごせると思っていたのだが、意外なほど寒くて、現地の人たちは薄手のダウンジャケットを着ていた。寒さに耐える羽目になった。

 
台北はやはりそれなりの寒さの中にあった。屋台から湯気が立ち上がっていた。春節直前の高揚感みたいなもの、ざわめきがあった。大稻埕という古くからの繁華街には提灯が飾り付けられ、店先には仮設売り場の準備が始まっていた。

それでも一歩路地裏に入ると、殺風景が広がる。この時期、天気もあまり良くない。晴れたかと思うと、すぐにどんよりとした雲がかかる。日が差せば、赤や黄色の看板が鮮やかに映えるのだが、太陽が隠れると途端に色がなくなって感じられるから不思議だ。ただ、この感じが嫌いではない。逆に好きだ。当てもなく歩く。汗をかくことはない。
 

 
20代の頃に観た台湾映画を思い出す。90年代、「台湾ニューシネマ」と呼ばれる台湾映画のブームがあって、東京にいたわたしはできるかぎり、それらを観た(同じくらい香港映画も)。急激に都市化する台北を舞台にしたものが多かった。

裏通りを歩いていると、いくつかの映画の場面を思い出す。ただ、どの監督のどの作品だったのか。記憶は曖昧だ。スクリーンには意外なほど色のない都市風景が映し出された。エドワード・ヤンの「台北ストーリー」だっただろうか。蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)の「愛情萬歳」だった気もする。どちらも都会で暮らす若者たちの孤独が描かれていた。

東京以外のアジアの都市で、同じく孤独を抱えている青年たちがいることを、映画を通して初めて知った。バブルが崩壊したばかりの東京と重なるところがあった。だから、当時、わたしは強く惹かれたのだろう。「愛情萬歳」のなかで不動産屋に勤める青年は夜の街をバイクで疾走する。あの心境、感覚がよく理解できた。懐かしい。

あの頃の台北を思い描きながら、さらに歩く。



小林紀晴
1968年長野県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。新聞社カメラマンを経てフリーランス。アジアを多く旅して作品を制作する。近年は日本国内の祭祀、自らの故郷である諏訪地域などを撮影している。『孵化する夜の啼き声』『深い沈黙』『写真はわからない』など著書多数。最新刊は『写真のこたえ』(2025.12)。写真集『DAYS ASIA』で日本写真協会新人賞、写真展『遠くから来た舟』で林忠彦賞、写真展『Cyber Modernity』で伊奈信男賞を受賞。初監督映画作品に『トオイと正人』がある。



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