出張でソウルに来た。
夜、ホテルのデスクでこのテキストを書いている。
薄いレースカーテン越しにネオンが柔らかく光っている。
最近はホテルに来ると毎度撮っている気がする。
柔らかくパチパチ光る夜のネオン。
夜はいい。
発した言葉がとどまらずに消えていく感じがするから。
話したことを相手が忘れてくれればいいのにな、と思いながら話すことがある。
覚えてなくてもいい。
聞いてくれていればいい、と思う。
ベットに入ったらすぐに眠ってしまう。
眠れない、ということがほとんど無い。
成長痛で眠れなかった子供の頃を思い出す。
「おやすみなさい屋根の星 明日も元気に起きましょう」が寝る前の合言葉だった。
祖父母の家の天井は杉板だった。
長期休みで祖父母の家に泊まりに行った時の夜の景色。
木目を目でなぞりながら寝ていた。
今は眠る前の余白が全くない。目を瞑ったら朝になる。
合言葉もないし、天井も真っ白だ。
寝る前に考え事をしたり、その日のことを振り返ったりもしないから、色々忘れがちになるんだろうか。
話したことや見たことを忘れても、その事実があったことは変わらないので、それでいいか、とも思う。
でも、確かなことは、写真を撮った時の状況や気持ちはしっかりと覚えている。
点の記憶はある。
うっすらとした膜の中に、柔らかく、でも確かに光っている、カーテン越しに見ているネオンのように。
石田真澄
1998年生まれ。
2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything will flow」、2021年3冊目の作品集「echo」を同社より刊行。2024年7月千葉県市原湖畔美術館にて展示に参加。
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