【コラム】いくつもの夜/石田真澄

2025.11.28 BLOG

出張でソウルに来た。
夜、ホテルのデスクでこのテキストを書いている。
薄いレースカーテン越しにネオンが柔らかく光っている。
最近はホテルに来ると毎度撮っている気がする。
柔らかくパチパチ光る夜のネオン。

夜はいい。
発した言葉がとどまらずに消えていく感じがするから。
話したことを相手が忘れてくれればいいのにな、と思いながら話すことがある。
覚えてなくてもいい。
聞いてくれていればいい、と思う。

ベットに入ったらすぐに眠ってしまう。
眠れない、ということがほとんど無い。
成長痛で眠れなかった子供の頃を思い出す。
「おやすみなさい屋根の星 明日も元気に起きましょう」が寝る前の合言葉だった。

祖父母の家の天井は杉板だった。
長期休みで祖父母の家に泊まりに行った時の夜の景色。
木目を目でなぞりながら寝ていた。

今は眠る前の余白が全くない。目を瞑ったら朝になる。
合言葉もないし、天井も真っ白だ。

寝る前に考え事をしたり、その日のことを振り返ったりもしないから、色々忘れがちになるんだろうか。
話したことや見たことを忘れても、その事実があったことは変わらないので、それでいいか、とも思う。

でも、確かなことは、写真を撮った時の状況や気持ちはしっかりと覚えている。
点の記憶はある。
うっすらとした膜の中に、柔らかく、でも確かに光っている、カーテン越しに見ているネオンのように。

 
 
 
石田真澄
1998年生まれ。
2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything will flow」、2021年3冊目の作品集「echo」を同社より刊行。2024年7月千葉県市原湖畔美術館にて展示に参加。




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