【コラム】各々の判断/木村和平

2025.08.22 BLOG

梅雨入りしたころ、GR meetの福島編にゲストとしてお声掛けいただき、私のわがままで故郷であるいわきを会場に開催していただけることになった。

私は前日にいわき入りして、実家で家族と久々に酒を飲み、当日を迎えた。いわき駅前の商業ビルにある大きな会議室が拠点となり、私は少し早めに駅に着いて、集合前に下のフロアにある図書館へと立ち寄った。高校生のころ、その学習スペースで毎日のように勉強をした時間のことを思い出し干渉に浸っていたら、集合時間に遅れてしまった。当時ほとんど新品だったリノリウムの天板には、およそ15年の時間が重ねられており、私がつけた傷はとうに更新されていた。

ありがたいことに多くの申し込みがあり、抽選を経て20名超の方々が集まってくれた。
GR meetは、前半は街を歩いて写真を撮り、後半で参加者の講評をするという流れ。正直なところ、私は一度きりの講評にかなりの苦手意識がある。理由は単純で、一度きりの短い講評では見せる側も見る側も伝えるのが難しく、表面的な言葉で終わってしまうことが多いからだ。

そういったわけで、私は長期のワークショップを開いている。その前提があるうえで、どうすれば実りのある一度きりの講評になるだろうかと、悩みながら撮影へと移行した。

私は駅正面の繁華街ではなく、反対側の静かなエリアを選んだ。こちら側は再開発の真っ只中で、通学で毎日のように歩いたはずの場所も大きく風景が変わっている。

GR meetは、GRを所持していない参加者もその場で借りることができる(しかも無料で。太っ腹!)。街を歩いて写真を撮るイベントや、ポートフォリオレビューの経験はあったが、こうして全員がひとつのカメラを使うというイベントは初めてで、皆が同じ黒くて小さな塊をぶらぶらさせている姿が面白かった。

昼食を挟んで講評の時間となり、順に参加者の写真を拝見してぽつぽつと話し始めた。いわゆる上手いか下手かという技術的なことではなく、なるべくそのひとがなぜそれを撮ったかとか、どういうパーソナリティのひとがこれを撮ったか、という観点で対話をするようにつとめた。

撮りたての写真に対する講評としてこのやり方が合っていたかはわからないし、技術的な講評を期待していた方は不満を感じたかもしれないが、短い時間の中で少しでも写真に写る内面を掬いとれたような感覚があり、個人的にはよい体験となった。

私と行動を共にするか否かは各々に委ねられていたので、参加者の中には撮影開始と同時に帰宅して家の猫を撮ってきたひとがいたり、自転車で少し遠くまで撮りに行ったひともいて、そういう各々の自由な判断が、そのひとらしい写真を生むのかもしれないと思った。

いつか地元で写真にまつわる何かを、と待ち望んでいたので、とてもありがたい時間となった。関わってくれたみなさん、ありがとうございました。

 
 
 

木村和平
1993年、福島県いわき市生まれ。東京在住。
ファッションや映画、広告の分野で活動しながら、幼少期の体験と現在の生活を行き来するように制作を続けている。
第19回写真1_WALLで審査員奨励賞(姫野希美選)、IMA next #6「Black&White」でグランプリを受賞。主な個展に、2023年「石と桃」(Roll)、2020年「あたらしい窓」(BOOK AND SONS)、主な写真集に、『袖幕』『灯台』(共にaptp)、『あたらしい窓』(赤々舎)など。
Kazuhei Kimura (@kazuheikimura)




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