「言葉の外側にあるもの」
写真には、目的があって撮られる場合と、そうでない場合がある。たとえば広告写真や報道写真は、広く情報を伝えるため、七五三や入学式の写真は、記録として残すためのものだ。
それに対して、スナップ写真には明確な目的が見当たらない。用途や役割が存在しない写真。しかし、今日も家を出る時には、カメラをバッグに忍ばせ、街中を歩きながら写真を撮っている。
「何を撮っているのか」と聞かれても、説明するのはとても難しい。なぜなら、言葉にできないものを撮っているからだ。
映画『燃えよドラゴン』の有名な台詞に「考えるな、感じろ “Don’t think. Fee”」という言葉がある。修行中の若者にブルース・リーが技を伝える場面だ。
ロジック(論理)よりも直感。考えるという行為には、言葉が必要だ。言葉なしに考えることはできない。だからこそ「その言葉の外側にあるものを感じなさい」というメッセージがそこには込められている。
スナップ写真とは、まさにそういうものだと思う。言葉の世界からあふれ出た何かを撮る。「名状しがたい」ものを撮るのがスナップだ。
ビルとビルの間に差し込む光には、何の意味もない。でも、それを美しいと感じる。そっと掬い上げるように、それを写真に残す。
それは、誰にも伝わらないかもしれない。でも、それでいいのだ。
渡部さとる
1961年山形県米沢市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。同社退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2003年よりワークショップを開催。
最近ではすっかりYoutube「2B Channel」の人として認識されている。おかげさまでその功績が認められて第33回「写真の会賞」特別賞を受賞しました。現在慶應義塾大学大学院非常勤講師でもあり、近著には『撮る力見る力』(ホビージャパン)がある。
Satoru Watanabe@watanabesatoru2b