【コラム】ONE PLUS ONE/内田ユキオ

2022.02.25 BLOG


ふたつ映画の話が続いたので、今回は音楽ネタを。
音楽業界にチャリティブームが起こった80年代に、まずイギリスでBand Aid、続いてアメリカで”We are the world”が大ヒットした。それよりは地味だったが、フェリー事故を救済する目的でFerry Aidが結成され、ビートルズの名曲「Let it be」をカバーした。ポール・マッカートニー本人も参加している。

この曲でギターを弾く二人の姿は対照的だ。
羽生結弦選手の伝説的名演「パリの散歩道」で知られるゲイリー・ムーアは、立ったまま一本のギターで鳴き続ける。”魂のブルースギタリスト”と呼ばれるだけあって、音色は叫びにも似ている。もう一方のマーク・ノップラーは椅子に座ったまま、たくさんのギターに囲まれ、一音ごとのニュアンスを繊細に操る。
初めて見た二十代のとき、圧倒的にゲイリー・ムーアに憧れた。写真家になっても、トレードマークのカメラを一台だけ持ち、全てそれで撮ってしまうスタイルを持ちたかった。ブレッソン・シンドロームかもしれない。

歳を重ねて今、このビデオを見直してみる。
ゲイリー・ムーアの姿に胸が熱くなることに変わりはない。彼が若くして亡くなったことで、その想いはさらに強くなった。
でも自分が理想にしているのはマーク・ノップラーかもしれないと思う。被写体によって、あるいは撮りたいイメージによって、カメラやレンズ、設定を使い分けていく。


同じころ、洋楽を聴いている友だちと「ジョン・レノンとポール・マッカートニーとどっちが好き?」と話し合った。ジョン・レノンが多数派だった。わかりやすく美しい曲を書き、ベーシストの才能もあるポールより、どこか影があり、不器用な生き方をして、若くして亡くなったジョンに肩入れするのは当然だろう。早逝したミュージシャンは、思い出を上書きしない。
でも今では少し違う。「ポールと一緒にいたときのジョンが好きだった」
これはGRIIIとGRIIIxの関係によく似ている。GRIIIxが好きだけれど、GRIIIがあってこそだ。28mmが控えていてくれるから、40mmを常用できる。ダイナミックに空気ごと捉える28mmがあるから、40mmの落ち着きと汎用性を愛することができる。


内田ユキオ(Yukio Uchida)
1966年 新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。
ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。
現在は写真教室の講師、カメラメーカーのセミナーなどでも活動中。
https://www.yuki187.com/gr-diary

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