GRist

GRist 川端裕人さん

2014-06-13

こんにちは、野口です。

今回のGRistは小説家の川端裕人さんです。日本テレビの記者から小説家へ。青春小説、科学系エッセイ、スポーツ記事など、ジャンルもテーマもとても幅広く活動されています。川端さんとの直接的な関わりは、2006年にGR DIGITALカレンダーコンテストの審査員になってもらい、写真集「GR SNAPS」に参加してもらった頃からで、もう8年以上になります。日々のランニングから海外取材旅行まで、いつもGRを肌身離さず持ち歩いていただいている生粋GRist。そんな川端さんに世田谷文学館の喫茶店でお話をお聞きました。

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野口(以降:野):川端さんのGR、すごい貫禄(笑)

川端(以降:川):毎日、ランニングの時に尻ポケットに入れているので、擦れてこんな感じになってます。
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野:ありがとうございます。こんな風に使い込んでもらえるのが嬉しいです。ところで、GRistとして、これまで音楽家、落語家、漫画家などいろんなジャンルの方を紹介させてもらっていますけど、作家の方を紹介するのは川端さんが初めてなんです。

川:あ、そうなんですか。

野:はい、なのでとても楽しみにしてました。そもそも、川端さんとは、ライターのタカザワケンジさんに紹介してもらったのがキッカケですよね。
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川:ああそうでしたね。タカザワさんが当時「川の名前」のレビューを書いてくれた頃でした。

野:そうそう、僕が最初に読んだ川端さんの作品が「川の名前」で、もうこれに完全に痺れてしまって、他の作品も読むようになったんです。大好きな少年の成長物語です。

■小説家が写真を撮ること
野:ということで、今日は作家が写真を撮ること、という点でお話を聞いてみようと思うんですが、写真を撮る時の意識や気分ってどう切り替えるのでしょう?

川:自分の中で自然にモードが切り替わりますね。記録するという意識が強い。僕が初めて商業誌に書いたのは1996年のSINRAなんですけど、それはニュージーランドで取材したペンギンの記事でした。

野:写真も全て川端さんが撮っているんですね

川:はい、このころはメインのカメラは、キヤノンのEOS1だったか?で、サブで持っていたのが銀塩のGRでした。GRで撮った森の写真がとても良く撮れていて、セレクトは編集者だったけど、やはりそれが選ばれたんです。その頃から、写真は記録という意識が強かったですね。
野;それはテレビ局時代の記者マインドからでしょうか?

川:それよりも、僕はあくまでも物書きで自然写真家ではない、だから記録から出まい、というブレーキがありました。

野:そこは線引きをしておこう、と。

川:まあ、でも、ちょっとイイ写真撮ろうとか、たまに色気が出てしまうこともあるわけだけど(笑)
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野:もともと写真は好きだったんですか?

川:中学校の時に、初めて自分のカメラとして手にしたのがペンタックスのME Super。高校で地学部に入って天体写真を撮り始めました。

野:小説のように、長い時間をかけ推敲をして練り上げていく作業と、一瞬の撮影という行為は、正反対の感じですね。どう気持ちを切り替えるのでしょう?

川:撮ろうと思った瞬間に、切り替えは起きているので、そこはあまり意識しないです。それより、同じ写真でも日常的に使っているときと旅先で使うときで、意識の差はあきらかにありますね。

野:それはどういうことですか?

川:毎日走るときにGRを尻ポケットに入れているんですけど、その時、綺麗な花があったら、ちょっと変わったふうに撮ってやろうという意識が働くんです。日常でもこんなに違って見える、ということを表現したくて。

野:はい。

川:僕にとって、モノを書く毎日が日常ですが、そんな中で、こんな風に撮れた、これも一つのリアリティだよね、ってことを確認するためにカメラを使っている感じです。

野:なるほど、それが旅先では?

川:旅先はそれ自体が非日常だから、それはきっちり見たままを撮っておこうと思います。記録する、という意識が強いです。

野:日常の中の発見、旅先の記録ですか。表現者としての日常、ジャーナリストとしての旅先、とも言えますね。旅先の写真は、小説を書く時など見返したりする?

川:はい。今、種子島を舞台にした小説を書いているんですけど、そこで撮った写真をiPadに表示させておいて、たまに眺めたりもします。

野:種子島というと、ロケットテーマの写真ですか?

川:小学生が親元を離れて一年間暮らす、宇宙留学という名前の山村留学がありまして、そこに来た子たちの話です。
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■小説家のアンテナ
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野:この睡眠本「8時間睡眠のウソ」はとても好評のようですね。増刷したとか。

川:睡眠医学の専門の先生と対談形式でまとめたものなんですけど、睡眠に対する関心が今とても高い割に、最新の情報が整理されていなくて、ちょうど良いタイミングだったなと思います。

野:川端さんのテーマは、とても多岐に渡ってます。睡眠だけでなく、ロケット、ペンギン、教育、子育て、自然、サッカーなど。それらはどうやって決まるのですか?

川:僕は、ジャンル的な書き手ではないんです。プリミティブな小説家で、なにかのジャンルを極めていこうという意識がない。
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野:SF、歴史、ミステリー、恋愛など◯◯作家という肩書きが付かない作家。

川:ひと昔前の芥川賞の講評など見返すと「漁村の生活を"活写"した」なんて書いてあるんですけど、僕も"活写"するのが好きみたいで。

野:活写ですか。

川:例えば目の前に「子ども」とか保育園とかPTAがあって、それが面白いと思うと、そこを掘り起こしてお話にしてみたいとか。

野:やはりジャーナリストとしての探究心がベースになっている?

川:そうですね。だから、目の前にガツンガツンとやってくるものに驚いて、反応している感じです。

野:そうやって、打ち返しながら、同時にペンギンやロケットなど、ライフワーク的なテーマも追っかけています。

川:そういう、以前から興味があるものは、その合間に少しづつ、ですね。

■川端さんの次の興味
野:でもスルーするテーマもあるはずで。

川:そのふるいは、自分がやる意味があるのか、っところですかね。自分しか気づいていないリアリティというのがあれば、そこに光を当てたいというところかな

野:なるほど、やはりジャーナリスティック。でも、ジャンルが変わると前の知見が活かせなくて、毎回、基礎知識から勉強したりと、大変なのでは?

川:はい、それは毎回、結構大変ですね。それが面白いことでもあるんですけど。ただ、学んでいって、ある程度になると、あとは比較的楽になる飽和点があるんです。

野:どのくらいの作品を同時に書いてるのですか?

川:今、同時に書いているのは3つです。声優の成長物語、天気を読む能力を持った一族の話と、種子島の話。

野:声優の話は「銀河のワールドカップ」がアニメ化したのがきっかけで?

川:はい、声優さんの知り合いも増えたので。

野:それは楽しみです。

■写真とカメラ
野:デジタル一眼はEOSをお使いなんですね?

川:はい、その理由は単純で、ソニーのテレビカメラとキヤノンの一眼のズームリングの方向が同じだったから。

野:好きな写真家は?

川:星野道夫さん、自分がネイチャーフォトに一番興味があった時代に活躍していた。同じもの撮っているのになんでこんなに違うんだろうと?クジラの骨の写真を撮るだけでも、もう全く違う。

野:確かに。他には?

川:最近だと鳥類学者のティム・レイマンが出した「極楽鳥全種」という写真集がよかったです。極楽鳥を淡々と全種網羅したものなんですが、とても写真力が伝わってくるものでした。

野:図鑑的なものから伝わってくる写真の力ですか。

川:記録写真なのに、そこから作品性が立ち上がる人がいるんだなあと、惚れぼれしました。

野:記録を極めた結果としての芸術。

川:それとは逆に、芸術作品なのに科学性があるようなものにも惹かれますね。例えば、GRで骨の写真を撮っている湯沢英治さんとか。

野:なるほどなるほど。

川:作品性と記録性のブレンドは、自分の中でいつも考えているテーマです。自分はそこをスプリットしてしまうんで。どう混ぜるかが難しく、またそこが面白い部分でもありますね。
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野:最近興味があるものは?

川:素粒子物理とか宇宙論の最先端を連続して取材する機会があったのですが、それが面白くて、なにかやってみたいな、と思っています。

野:なかなか難しそうなジャンルですね。

川:それと、ジャワ原人とかの人類学方面。フローレス島で発見されたホビットの愛称で呼ばれる身長110cmくらいの小さな人類の起源が今話題なんです。論争が続いている分野なんですが、たまたま研究者の方と一般書にできないかと相談しているところです。

野:うーん、これからも川端さんの探求の世界はどんどん広がって行きそうですねぇ。

川:カメラもいつか小説にしたいんです。

野:「12月の夏休み」という作品の中では、カメラがキーアイテムになっていて、明記してないけどGRのイメージでしたよね。

川:はい、あれはGRですよ。GRをみせてイラスト描いてもらいました。カメラじゃなくてもレンズでもいい。キラキラしているものが好きだし。

野:GRを持って旅する写真家の冒険潭、いつか読んでみたいです。

■お気に入りの写真
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2006年6月、ドイツでのサッカーワールドカップ。イングランド対トリニダード・トバゴ(ニュルンベルク)の試合直前、イングランドサポーターの少年たちと。

~取材を終えて~
ジャーナリスティックなアンテナでテーマを探り、それを次々と物語にしていく川端さん。記録と表現の間を行ったり来たりしながら、仕事にプライベートにいつもGRを傍らに置いてもらっているスタイルの一面を、今回紹介させてもらいました。
リアルな事象の中から物語として削りだせる原石を見つけ、カタチのしていく作業が川端さん流のスタイル。それが小説、エッセイ、実用本など様々な形となって、これからも僕たちを楽しませてくれることでしょう。もしかして、それがGRのレンズを通して発見したものだったりすることも、あるかもしれません。

■プロフィール
川端裕人(かわばた ひろと)
兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、世界をかけぬける中学生の青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)など。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、「銀河へキックオフ」としてNHKでアニメ化された。ノンフィクションとして、ナショナルジオグラフィック日本語版ウェブサイトでの連載を元にした『8時間睡眠のウソ。 ──日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)などがある。
http://ttchopper.blog.ocn.ne.jp

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