GRist

GRist 岡嶋和幸さん

2011-02-08

今回のGRistは、フォトグラファー 岡嶋和幸さんです。
RING CUBEで昨年開催された写真展「Secret2010」に参加されたほか、2010年度リコーフォトコンテストで審査員を務めていただき、年末にはRING CUBEにてワークショップを開催していただいています。

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岡嶋さんがお住まいの千葉・御宿はサーフィンのメッカということもあり、率先して私、えみっふぃーがお話を伺ってきました。

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御宿海岸

えみっふぃー(以下 え):ブログで拝見しましたが、年初から海外に撮影に行かれていたんですよね。いかがでしたか?

岡嶋さん(以下 お):
アイルランドに行っていたんですけど、ずっと天気が悪くて、なかなか撮影できなくて大変でした。

え:2月のCP+用の撮影ですか?(※注:CP+のリコーブース用に展示するGR DIGITAL IIIでの作品を岡嶋さんにお願いしています)

お:それもあるんですけど、今年はひさしぶりにアイルランドで作品づくりをしようと決めているので、その下見も兼ねて。

え:今回は短い日程だったのでは、と思いますが。

お:僕は、同じところに3日いると写真が撮れなくなってしまうんです。
自分が見ているものに対して、反応できなくなってしまう。
だから、いつも短期間で撮影して、帰国して撮ったものを見ながら反省点を見つけて、あらたな課題を携えてまた行って撮る、ということを繰り返しています。

え:同じくアイルランドが撮影地になっている「ディングル」のときも、ですか?

お:ディングルには8回行きました。

え:じゃあ、今年も...。

お:はい、アイルランドにはまた何度か行きますよ(笑)

■テーマ、「水」
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え:岡嶋さんの作品では、「潮彩」(しおさい)と「くろしお」が個人的に非常に印象深いです。「ディングル」も含め、これらのテーマの関連性はあるんですか?

お:僕は、「水」というテーマをいろいろな角度から捉えています。
ミャンマー・インレー湖の子どもたちの写真(※注「学校へ行こう!」)も、「ディングル」も、「潮彩」も「くろしお」も、みんな水で繋がっているんです。

え:なぜ「水」がテーマになったんですか?

お:僕は福岡の出身で、上京してからは都内に住んでいました。
そうしたら、なんだか息苦しくなってしまって。何かが足りない、と、よく考えてみたら「水」だったんです。
小さい頃、実家の近くに川や田んぼがあり、ちょっと行けば海もあるし、と、身近に水辺がある、というのが自然だったんですよね。
都内に住んでみると、川はあっても地面の下にもぐってしまっているし、田んぼもなくて、乾いているというか、とにかく水がない、と。

え:それで御宿に?

お:昔から、漠然といつかは海の近くに住みたいなぁと思っていたんです。
たまたま妻の実家がここから近かったこともあり、御宿に住むようになりました。

え:御宿は、千葉には珍しく白砂で透明度の高い美しい海で雰囲気もよく、個人的にとても好きな場所なので、うらやましい限りです。よくここで撮影もされるのですか?

お:せっかく海の近くに住んでいるんだから、海の写真を撮らないと、と思って撮り始めましたが、それまではまったく撮影していませんでした。
撮るといっても、日の出前にそこの防波堤のところで、くらいなんですが。

え:毎日ですか??

お:レタッチやプリント、原稿執筆など、明け方まで作業をしていることが多いので、夜明け前に空を見て「今日はなにか撮れそうかな」と思ったら、出かけます。来れば、かならず一枚は納得いくものが撮れるので。
毎日ではなく、適度な頻度だからいいのかもしれないですよね。

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え:海の写真を撮るときに気をつけていることはありますか?

お:自分の中で決め事を作っています。
空と陸地は入れないということ。基本は海面のみを撮る、ということです。
それに加えて、流し撮りと色彩が、自分のオリジナリティになっていると思っています。

え:海を流し撮りするという発想は面白いですよね。

お:初めはサーファーを流し撮りしていたんですが、そのうち波だけ流し撮りしたらどうなるかなと思って撮り始めて、このスタイルに落ち着きました。

え:色彩もオリジナリティ、ということですが、「くろしお」はモノクロですよね?

お:「潮彩」を発表したとき、どうしても"色"のほうに目を奪われてしまって、みなさんに僕が本来伝えたかった"水の存在感"というテーマをうまく受け取ってもらえなかった。それを感じてもらうにはどうすればよいかと考え、色という要素をなくす、すなわちモノクロ、となりました。

え:「くろしお」では伝わったという手ごたえがありましたか?

お:ありました。「くろしお」の写真展で、展示してある写真を見て波酔いしてしまう人もいましたよ。

え:それは是非、写真展で展示されている作品を見てみたかったですね...。
今後の「潮彩」、「くろしお」はどうなっていきますか?

お:潮彩II、くろしおII、IIIと続いていきます。

え:岡嶋さんの写真はとてもアーティスティックですが、アートを意識して撮影しているんですか?

お:アートかどうか、ということは意識したことがないですね。
仕事ではない、要は依頼されて撮るものではなく、自発的に撮った写真に関しては、ただ撮りたいものを撮り、よく撮れた、と思ったものをみんなに見てほしいというだけで。受け手がそれを観て喜んでくれるなら、それで十分なんです。

え:「くろしお」の写真展では図録を無料配布していたと聞きました。

お:写真展は来た方に観て喜んでもらえる場だけど、その場で見せるだけで終わらせたくないんですよね。
持って帰ってもらえる印刷物があれば、のちのち見返してまた新たな発見をしたり、それを写真展にこられなかった人と共有したり、広がりがありますよね。
それに、印刷物は自分の財産にもなるしね。

■GRと、役割分担
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え:では、ちょっと作品から離れて、撮影機材について聞かせてください。
リコーのデジタルカメラを使い始めるきっかけはなんでしたか?

お:ソフトバンク クリエイティブからGX100のムック本(RICOH Caplio GX100パーフェクトガイド)を出版する、というので、その仕事で使い始めたのが最初です。そのころGR SNAPSの話をいただいて、GX100で参加させてもらいました。
GR DIGITALはIIからで、デジタルフォト(雑誌・2010年5月にて休刊)の取材で白川郷に行った際に使ったのが始まりです。
でも、パソコン雑誌やカメラ雑誌のレビュー記事などで、かなり昔からリコーのデジタルカメラは触っていましたね、歴代のほとんど機種といっていいくらい。

え:撮影のときはいろいろな機材を使うと思いますが、どんな風に使い分けているんですか?

お:僕にとっては"写真=プリント"なので、撮りたいものが決まったら、それをどんな紙に出すか、そのためにどの機材で撮るか、をまず決めます。
一度決めたら、撮りたいものは決めた機材でしか撮りません。
同じ構図の写真を、押さえのために別の機材で撮るということはないんです。

え:よくメインカメラ・サブカメラ、と使い分けている方がいますが、岡嶋さんはそういった使い分けをしない、ということですか?

お:撮るものによって、ツールが変わるんです。
そういう意味では、主目的を撮るものがメインのカメラで、それ以外の撮影を行うものがサブ、ですね。
撮ると決めた目的ではなくても、残しておきたいシーンに出会うことがあります。
僕は、それをメインのカメラで撮りたくない。

え:メイン・サブというより、オン・オフという使い分けに近そうですね。

お:写真力、というのがあると思うんですよ。
オンの写真は1枚をとるエネルギーをなるべく高くしたい。なるべく100%の1枚を、といつも思っています。
シャッターを切れば切るほど写真力が弱まっていくように感じるので、たくさんシャッターを切ることも避けています。
だから、オフの写真は特に余計なエネルギーを使わなくてもいいカメラがいいんです。

え:岡嶋さんにとって余計なエネルギーを使わなくていいカメラとは、どんなものですか?

お:いろいろな設定を自分でするのではなく、カメラ任せできちんと撮れるカメラですね。
写真を撮るまでの間に、自分でいろいろ設定変更したりなどエネルギーを消費してしまうのがイヤなんですよ。
ズーム機能も操作が必要で、僕にとってはエネルギーを使うものなので、ないほうがいいです。 
"撮る"ということだけに集中させてもらえるカメラであってほしい。

え:オフのカメラにも、こだわりがあるんですね。

お:オフ=遊び、どうでもいい、ということではないんです。オフで撮った中から作品になることだってある。
GR DIGITALは基本的にはオートモードのカメラ任せでもきちんとした写真が撮れるし、直感的なものを即座に撮れる機動力もある。
脳や視神経と繋がっているような感覚で使えるんです。だから、オフカメラに最適だと思っています。

え:GR DIGITALは視神経の延長だ、とおっしゃっている方は他にもいらっしゃいます。

お:画角のせいかもしれませんね。28mmは、自分の視野角と感覚が同じなんですよ。
僕は50mmも好んで使いますが、50mmは集中してものを見ているときの視野角と同じだと思っています。

え:ということは、GR DIGITALの50mm版があればよい、ということに...(笑)?

お:そうしてしまうと、今のサイズではなくなりますよね。このサイズだからGR DIGITALが成り立ってるので、GR DIGITALは今担っている役割をそのまま果たせばいいと思いますよ。50mmを使いたかったら、GXRも選択肢としてあるわけですし。

え:みなさんに、GR DIGITALに望むことをお伺いしているのですが、岡嶋さんは「特になし」ということでいいでしょうか(笑)?

お:そうですね...。強いて言うならば、縦の2点吊りを逆側でもできるようにしてほしいということかな。
片手で撮ることが多いと言いましたけど、今の位置だと、構えるときにストラップが邪魔になってしまうんです。

え:話がだいぶ戻りますが、紙と機材を決める、とおっしゃいました。
紙にもこだわるのは、絵を描かれていた影響があるんでしょうか。今でも絵は描くのですか?

お:今は頭の中にある表現したいものは写真で表現することを選んだので、描いていません。
でも、その表現したいイメージを整理するためにラフスケッチを描くことはありますけど。

え:それを写真で再現していく、と。まさに、絵を描くのと同じ感覚なんですね。

■お気に入りの一枚
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コネマラの牛

アイルランド・コネマラ地方で撮影場所を探しているときに出会った、牛の家族です。
僕がカメラを向けると、みんな興味津々で近寄ってくるんです。
【GR DIGITAL IIIで撮影】
(※なお、この写真はCP+でも展示させていただく予定です。)

■取材を終えて
御宿の海を見渡せるロケーションもあいまってか、非常にリラックスした雰囲気でお話を伺うことができました。
いろいろな話題で盛り上がり、気がついたら3時間以上経っていたくらいです。
今回ご紹介できなかったエピソードもいくつかありますが、そのうちの1つに2月9日から始まるCP+のカメラ&フォトセミナーでの岡嶋さんのお話は、今回のインタビューの続編的なもので、もう少しGR DIGITAL寄りの内容を予定されているとのことで、GR DIGITALの意外な活用術も含まれています。かなり、目からウロコでした。。。
後日、改めてご紹介したいと思いますが、気になる方は是非CP+の会場に足をお運びください!
■プロフィール

1967年福岡市生まれ。東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。

スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。広告や雑誌などの写真撮影を担当するかたわら、作品発表のほか、執筆、セミナー講師、フォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。

写真集「ディングル」ほか著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」「潮彩」「学校へ行こう!」「ころりど」「くろしお」などがある。

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